2010年11月30日火曜日

Fostex FF-WK シリーズ:スペックからの考察 (1) 8cmユニット編

フォステクスから、FFシリーズのニューモデルが出る事は、しばらく前から知られていましたが、2010年11月のカタログにデータが載せられているのを見つけました。FExx7シリーズが無くなり、FFシリーズも旧モデルの在庫も無くなって、フォステクスのカタログからバスレフ向きのユニットが無くなった時期でもあり、「待望の新製品」と言う所でしょう。2011年1月末発売となっています。

スピーカー・ユニットは、「使って音を聞かなければ分からない」というのが正論でしょうけれども、とりあえずデータを見て、その性格について考えてみたいと思います。最初は、8センチ・ユニットです。

フォステクスの、代表的な8センチ・フルレンジユニットのスペックを表にしてみました。

ユニット名 f0 m0 Q0 音圧レベル マグネット重量
FF85WK 115Hz 2g 0.55 86.5dB 187g
FF85K(旧) 125Hz 1.8g 0.47 88dB228.3g
FE83En 165Hz 1.53g 0.84 88dB 140g
FE87E(旧) 140Hz 1.4g 0.92 89dB76.4g
DCU-F081PP(参考) 103Hz 2.036g 0.46(Qts) 83dB130g
DCU-F101W(参考) 68Hz 3.45g 0.751(Qts) 82dB117g

参考として、PARC Audioの8cmフルレンジ、DCU-F081PPとDCU-F101Wのデータも載せました。フォステクスの8cmユニットの a(実効振動半径)は、すべて3cmです。(旧)とあるのは、旧モデルです。取り付け穴の寸法などは、FF85Kの切欠きを除いて、すべて同じで大丈夫そうです。

FF85WKは、フォステクスのユニットの中ではいちばんm0が大きく、f0が低いです。能率もやや低めで、バスレフ向きに設計されている事が良く分かります。一方、マグネットの重量、従って磁気回路のエネルギーについては、FF85Kよりは減っているものの、FE系のユニットよりは大きく、8cmユニットにしては、Q0も低い方です。強力な磁気回路と重めの振動系、というFFシリーズのポリシーを守ったなかで、バスレフ寄りにチューニングを振って来た事が伺えます。

FF85KやFEシリーズよりは小さなボックスで、低めのポート・チューニングが出来る事になります。推奨エンクロージャーもそうなっています。FF85Kの推奨エンクロージャーは容量5.45L、fd=108Hzなのに対して、FF85WKの推奨エンクロージャーは容量3.48L、fd=92Hzとなっています。FE83Enの推奨エンクロージャーは、容量6.87L、fd=83Hzで、かなり大きくなります。

PARC Audioのユニットと比べると、ウッドコーンのDCU-F101Wはフォステクスのユニットのどれに比べても振動系が重く、f0もずっと低くて、はるかにマイルドなユニットです。ポリプロピレンコーンのDCU-081PPは、振動系も軽めなので、FFシリーズにやや近い特性に見えます。

FF85WKの周波数特性を見てみると、10KHzあたりにピークも見え、アルミ・センターキャップのキャラクターがあるのかも知れませんが、FF85Kと比べると、やや 穏やかになっているようにも見えます。 FEシリーズとはやや異なる性格のユニットですが、バックロードにもけっこう使えそうなスペックです。FF85WKは、FF85Kよりは少し「中庸」になった、でも強力なユニット、という印象を受けます。

2010年11月28日日曜日

長岡鉄男氏の「素晴らしさ」

長岡鉄男氏の設計したスピーカー群には、「長岡教」と呼ばれるくらい、熱狂的なファンがいるわけですが、僕自身は、長岡氏がご存命の頃は、特にファンという訳ではありませんでした。でも、最近改めてスピーカーの製作に興味を持って、長岡鉄男「オリジナルスピーカー設計術」(全3冊)や、古い本などを読んでみると、とても面白いのです。

紙面から音は出ませんから、「音がいい」という事ではありません。いろんなスピーカーを、様々な思いつきで、次々に設計して作って見せている所が圧巻なのです。たぶん、ひとつひとつのスピーカーを、それほど細かくチューニングしている訳ではないと思いますし、「設計しっ放し」、「作りっ放し」という感じのスピーカーも多く見られます。「設計術」に載っているのは、長岡氏の設計したスピーカーの一部なのですが(ユニットの入手性の悪いものは省かれています)、この中にも、バランスの良くない設計は沢山ありそうです。

でも、とにかく、いろいろなアイデアを大切にし、設計してみて、(必ずしも自分でではなかったようですが)作ってみて、音を出して、音楽を聴き、測定してみる、という事を、おびただしく繰り返しています。その中から「スワン」のような有名なスピーカーが生き残っている訳です。でも、その旺盛な設計・製作活動、そのものが素晴らしいと感じます。どれかが、「いちばん音が良い」のではなく、それぞれに個性があり、それぞれの良さを味わう、という境地が感じられます。

細かい事に拘らず、とにかく思いつきを形にして作ってみる。出てきた音を楽しむ。こういう「おおらかさ」が、(僕にとっては)長岡鉄男氏のスピーカー群の最大の魅力です。「○○を○○万円のブランド品に替えたら音が変わった」というようなオーディオとは正反対です。たくさん作るには、そんなに高価なパーツは使えません。だから、「コストパフォーマンスが最高!」というのが決まり文句です。ちょっと、コミックスの「クッキングパパ」で、「食おうぜ、うまいぜ!」が決まり文句なのと、ちょっと似ています。「ネアカなオーディオ」というのは、貴重な存在でした。改めて、長岡氏の早すぎた死が惜しまれます。

長岡氏の設計したバックロードホーンを、いくつか作ってみたいと思っている今日この頃です。候補は、「スーパースワン」と、D-102です。どちらも10cmクラスのユニットですが、これ以上のバックロードは、ちょっと大きすぎて・・・。他にも、(人気はないようだけれど)チムニーダクトのフロア型2ウェイ、F-103ファーネスは興味を惹かれる設計のスピーカーです。オリジナルのユニットはすべて廃番ですが・・・。

2010年11月27日土曜日

真空管アンプキットの製作の記録

数年前に製作した、簡単な真空管アンプキットの製作の記録を、ウェブページに載せました(ブログには、少し長過ぎる感じなので。)。その時期に、あるブログに書いたものを、少し整理したものです。

三栄無線6BQ5シングルアンプキット

エレキット 2A3シングルアンプキット TU-872LE

です。どちらも中途半端な記事で、測定データなどはありませんし、試聴感想もほとんどありません(これは、ポリシーという事もありますが)。少しは測定した記憶があるのですが、データも散逸してしまいました。やはり、きちんとどこかに書いておかないと、無くなってしまいます。記録は大切です。TU-872LE(2A3シングル)の周波数特性の測定結果のグラフだけは見つかりました。


高域はあまり伸びていませんが、まぁまぁでしょう。

2010年11月26日金曜日

あらまほしき真空管アンプ

(数年前、もう閉めてしまったブログに書いた文章です。 散逸しそうなので、メモ代わりにここに転記しておきます。)

真空管アンプの製作と言うのは、おかしな趣味で、それを使って音楽を聴く事以上に、いろいろな真空管を使いたい、面白い姿のアンプを作りたい、という動機に動かされていたりします。だから、「こんな真空管を使うと、こんなアンプが作れるのではないか」とか、「この真空管からはどんな音が出るんだろう」とか考える訳です。また、「修行」という感じもあり、小さくて簡単なものから初めて、だんだん大きな、高度なアンプを作って行く、というプロセスを踏む必要がある様な気がしたりもします。

しかし、改めて、「作る」という側面を忘れて、本当に手元に置きたいアンプを考えると、実は幾つかに絞られてきます。僕にとって、それはどんなアンプだろう、と(ろくに作ってもいないのに)考えると、意外なアンプ像が浮かび上がってきました。本当に使うためのアンプ3種類と、真空管を取り替えて楽しむためのアンプ2種類、というのが最後に残ったものでした。

(1)実用のためのアンプの第一は、300Bのプッシュプルアンプです。

300Bは、Western Electoricのあまりにも有名な古典的真空管(直熱3極管)で、かつては高価でしかも入手困難な事で有名でした。しかし、現在は(中国、ロシア、東欧の)多くのメーカーで互換品が製造され、それなりの品質のものが1ペア2万円くらいで入手できます。相対的にはもちろん高価ですが、20年前に数十万と言われたのと比べると、はるかに身近になっています(物価の変動もありますし)。いわば、「普通の真空管」として使えるようになっています。300Bを、伝説抜きに性能だけで見てみると、使いにくい部分もあり回路には工夫が必要だけれど、高効率で、3極管プッシュプルで30Wを簡単に得られる、他で代えがたい特性の真空管です。

少し前までは300Bプッシュプルというと、高価な部品を使って、ベテランの技術を駆使して作らなければいけない、という感じがありました。でも、高価でない部品を使って、標準的な回路でそれなりに負帰還をかけてアンプを作ると、たいへん実用的なのではないかという感じがします。出力インピーダンスはもともと低いので、10dBも負帰還をかければ、現代的な(低能率の)スピーカーを十分鳴らせるアンプになります(パワーも十分ありますし)。「実用のための300Bプッシュプル」と言うのは、古くからの真空管ファンには違和感があると思いますが、スピーカーの適応性も広く、意外な本命、という感じです。浅野勇氏の常用システムだった、というのも頷ける感じがします。

(2)小出力で楽しむ実用的シングルアンプといえば、やはり300Bシングルです。

これは、あまりに定番なのですが、300Bシングルで8W~10Wのアンプ、と言うのは、やはりシングルアンプのひとつの到達点だろうと思います。これも、大げさでない部品で作れば、特別に高価ではない実用的なアンプが作れると思います。でも、(1)に比べると、かなり趣味的なムードです。低能率のスピーカーで大音量を出すのは全く無理ですから、軽い振動系の小さなスピーカーで小音量で(ボーカルなどを)楽しむか、昔風の(大型の)高能率のスピーカーで鳴らす、という使い方になります。回路的にも、無帰還がぴったり合う感じがします。でも、やはりひとつは手元に置いて、ローサーのような軽い振動系のスピーカーにつないで使いたいアンプです。

(3)実用的なアンプの最後は、「近代的」真空管アンプです。

ここでいう、近代的真空管アンプとは、大型の多極出力管をプッシュプルにして、局所帰還を使い出力インピーダンスを下げた上で、位相補正をしっかりして十分な量の負帰還をかけて性能を整える、というタイプの真空管アンプです。マランツのModel 8B、Model 9、またマッキントッシュのMC240, MC275などが(既に古典的と言うべきでしょうが)代表的な例です。現在でも、AirTightなど、こういう正統派のアンプを作っているメーカーは少なくありません。こういうアンプは、ある意味で半導体アンプに近いのかもしれませんが、きちんと作ってあれば、大出力(50W~100W)が低い出力インピーダンスで得られて、低能率のスピーカーでも十分に鳴らせます。やはり、どうしても欲しいタイプのアンプです。

具体的な部品の選択には迷う所ですが、(性能、入手性を考えると)結局は6550/KT88か、EL34/6CA7のどちらか、という事になると思います。6550のほうがEL34より一回り大きいので、「どちらか」という事になると、6550という事になりますが、EL34も捨てがたい良さがあり、また50Wくらいは簡単に得られるので、十分な大きさでもあります。実際にどのようなアンプになるかはともかく、ひとつは手元に置いて、イギリスの現代的なスピーカーでも鳴らしたいタイプのアンプです。

(4)真空管を取り替えて遊ぶタイプのアンプの第一は、6L6~6550クラスのシングルアンプです。

これは、大ヒットしたエレキットのTU-879のような(他にもあるけど)アンプです。このアンプ・キットはいろいろな意味でよく出来ていて、「なるほど」と思わせる所が多いのですが、最大の魅力は、6L6GC、KT66、EL34/6CA7、6550/KT88を差し替えられるという事です(たぶん、KT77も大丈夫)。これらの真空管は、さらに互換の真空管が多いので、本当に様々な真空管を差して使ってみる事が出来ます。この点に関して、別に技術的に難しい事はないので、そういうアンプを作ってみる事は何でもありません(いわば、コロンブスの卵です)。キットには、いろいろな意味で妥協があるので、自分で納得いくものを作れば、かなり楽しめそうです。どの程度まで「差し替えだけで可能」とするか、「多少の調整で差し替え可能」とするかは判断に迷う所ですが、いじり甲斐はありそうです。性能的には、あまり多くを期待できませんが、真空管を取り替えて音色の違いを楽しむ、という風な、本当に気軽なアンプです。

(5)最後は(4)のプッシュプル版です。

十分な容量の電源を用意し、出力トランスに不平衡に強いものを用いて、自己バイアスで出力段を構成すれば、(4)のプッシュプル版を作るのは特に難しくありません。性能的には、これも妥協のかたまりになりますが、お遊びとしては楽しそうだし、実は一番安定した、故障しにくいアンプになるかも知れません。遊び心は(4)に譲るけれど、実用上は(3)に近い性能が出せる可能性のある、地味だけど味のあるアンプになりそうな気がします。

しかし、こうして並べてみると、趣味性の高い小型出力管(6V6、EL84/6BQ5、ECL86など)、傍熱型三極管(5998、6CK4、6G-A4など)、テレビ球(6EM7、6LU8、など)は、まったく出てきません。今でも人気のある真空管ばかりです。やはり、人気のある真空管は実用性が高いのだ、という事が実感できます。

(2007年02月10日)

2010年11月25日木曜日

シングルアンプのドライブ回路を考える

(数年前、もう閉めてしまったブログに書いた文章です。 散逸しそうなので、メモ代わりにここに転記しておきます。)

真空管アンプを自作しようとすると、2A3シングルなどは、真空管も主要部品も手に入りやすく、出力は小さめだけれど、大げさにならず手頃な感じがします。出力段の動作は、作りやすさから自己バイアスとなるのですが、ドライブ段については、いろいろ悩ましい所です。すこし、まとめてみようと思います。

直熱管リバイバルの最初の時期には、「2A3はバイアスが深くて振りにくい」と言われて、低rpの電圧増幅管でドライブする、というのが定番でした。ドライブ管としては、古典球では76とか、近代球では12BH7Aなどを用いて、ひずみの打ち消しを図る物でした。実際には低rpの中μ管ではゲインが足りないので、初段に6267の三結とか、12AX7にPG帰還をかけたものなどを加えて、三段増幅回路でアンプを構成するのを良く見たように記憶しています。現在では、その頃の回路そのまま、と言うのはあまり見かけませんが、サンオーディオやエレキットのシングルアンプのような、6SN7の2段増幅でドライブ、というのは定番のひとつのようです。この場合、初段と2段目は直結とするのが多いようです。6SN7は、12BH7Aよりも直線性が良いので、電源電圧を低めにして歪ませる、という事を意図しているのかも知れません。


ひとつ気になる点としては、ゲインが高めで、NFBなしではノイズが気になりそうだと言う点でしょう。十分なドライブ電圧を確保しつつ歪みの打ち消しをうまく行うためには、電源電圧を含めて、回路定数の慎重な決定も求められそうです。しかし、ドライブインピーダンスも低め(真空管によるが、数KΩ程度)であり、無難な回路と思われます。

最近のもっとも一般的なドライブ回路と思われるのは、高μ管を用いたSRPP回路です。


ドライブ電圧も高めに取れるし、部品点数も少なく、作りやすい回路なのだろうと思います。回路定数の決定が(あまり深く考えなければ)簡単なのも、人気の理由かと思います。SRPPは出力インピーダンスが低い、と言われているのですが、12AX7や6SL7のような高μ管では、実際には10K~20KΩの出力インピーダンスになるはずです。直熱出力管は入力容量が大きいのが普通ですから、ミラー効果もあり、ここで高域の帯域が決定する場合が多いように見受けられます。また、ドライブ能力(電流供給能力)も大きくはないので、出力管のグリッドリークは、せいぜい50KΩ、出力電圧を考えると100KΩ以上が妥当な所でしょう。これも、ある意味では無難な回路だけれど、性能的には限界があるようにも思われます。

この、SRPPの変形として、森川忠勇氏の設計するアンプで採用されている、SRPPとグリッドチョークを組み合わせる回路があります。


グリッドチョークの入手や設置場所の問題はありますが、上記のSRPPの問題点のうち、グリッドリークにかかわる問題点を解消している、という点で、とても面白い方法だと思います。一方、チョークのインダクタンスがそれほど大きくは取れない事(それにカップリングコンデンサーとの共振)から、低域特性に影響が出るのを注意して設計する必要があります。

最近見つけて、大変面白いと思っているのは、Tube CAD Journal のJohn Broskie氏考案の、いわゆる AIKIDO 回路です。


この回路は、球の数は多くなるのですが、電源ノイズの打ち消しをはじめとする、様々な美点があります。出力インピーダンスも低く、欠点は見当たりません(カソードフォロワー段に6SN7を用いた場合でも、出力インピーダンスは1KΩ以下になります。5687などを用いれば、(意味はないかも知れませんが)さらに低くなります)。強いて言えば、歪みが少なく、歪みの打ち消しを行うのが難しい、と言う点でしょうか?第一段目に6SL7あたりを用いればゲインも十分取れますし、ぜひ試してみたいドライブ回路です。

最近ノグチトランスのカタログを眺めていて気が付いたのですが、「カソードチョーク用」と書かれた内蔵チョークが(比較的)安価に販売されているようです。8mAほどの直流が流せる80Hのチョークです。直流抵抗も手頃な値で、以下のような回路で自己バイアスの直熱出力管を強力にドライブできそうです。



基本的にはカソードフォロワー直結ドライブと似ていますが、(自己バイアスだと)それほど強力に正のグリッド電圧領域までは振れない一方、負電圧も必要なく手軽で、しかも極めて安定な事が期待できます。カソードフォロワーの出力インピーダンスが低いので、インダクタンスによる低域の制限も、ほとんど問題になりません。高域(チョークの分布容量)についてはデータがないのですが、たぶん問題にならないと思われます。チョークの設置場所などに悩ましい点もありますが、これもまた、ぜひ試してみたい回路です。直結ドライブである事で、グリッドリークに関わる過渡特性の改善も期待できます。

(2007年09月16日)

2010年11月24日水曜日

Morgan Jonesの本と6SN7

(数年前、もう閉めてしまったブログに書いた文章です。 散逸しそうなので、メモ代わりにここに転記しておきます。)

Morgan Jonesの有名な"Valve Amplifiers"という本の、第3版を買って読み始めました。いろいろ、日本のオーディオ雑誌等では見かけない事が書いてあり興味深いのですが、その中に「歪みの少ない真空管を選ぶ」という節がありました。

ドライバーレベルで用いる電圧増幅用真空管を測定してみると、管種によって歪みがかなり異なり、定評通り、おおむね6J5/6SN7族が低歪みである、という測定結果が載せられています。もっと細かく、ブランドや構造による違いも論じているのですが、こういう視点から真空管の性能を追い込んでいく、というのは、日本の昨今の風潮とは逆のようにも思えます。(「出力段の歪みは出力管の「味」であるから打ち消したりしない」という文章を見た事もあります。)

もちろん、歪みが多い真空管を用いて出力段との2次歪みの打ち消しを行う、という事もあるので、歪みが多いのが一概に悪いとは言えませんが、一般に2次歪みが多い真空管は(直線性が悪いので)3次以上の高次歪みも多く、やはり歪みが多くなりがちである、とも言われます。

一方、MT管は一般に歪みが多い、(フィリップス以外の)5687や、6DJ8は比較的歪みが少ない、という事も述べられていますが、では6SN7族のメンバーである6CG7/6FQ7はどうか、という事については、何も述べられていません(測定結果がありません)。さらに、追求すべき事は沢山ありそうです。

ちなみに、12AU7/ECC82族は、一貫して(consistently)歪みが多い、という事で、この辺は6SN7族に似ているのかと思っていたので、意外でした。12BH7(A)が歪みが多いのは良く知られていますが、12AU7もその仲間、という事のようです。
(2007年09月21日)

2010年11月23日火曜日

6CA7の三極管接続について

(数年前、もう閉めてしまったブログに書いた文章です。 散逸しそうなので、メモ代わりにここに転記しておきます。)

6CA7(EL34)は、たぶん現在一番ポピュラーな出力(真空)管のひとつです。有名な所では、マランツ8Bに使われていて、このアンプではウルトラリニア接続と三極管接続が切り替えられるようになっています。このように、6CA7の三極管接続は高性能なことで定評があるのですが、たまたま、有名サイトである「ぺるけ」氏のウェブページで、6CA7の三極管接続のデータは間違っている、という話に出くわしました。具体的には、三極管接続の動作例が実際以上に高性能である、という事です。どういう事なのだろうと不思議に思い、少し調べてみました。

そこのページには、佐藤定宏氏の本に既に指摘されている、とあります。たまたま持っている本なので見てみると、そう露骨には書いていないのですが、実測した結果をもとに、ちがった動作点を求めて用いています(A2級動作なので、データシートの動作例とは一概に比べられませんし、テレフンケンの球と、シルバニアの球で特性が違う、という測定もしています)。他の本も見てみると、那須好男氏の本では、動作例に従ってシングル・アンプを組んでみるとそのような性能(出力6W)が得られない、と言う話が書いてあります。やはり特性を実測して動作点を計算し、出力4.8Wの動作例を得て用いています。(武末数馬氏の本もあると良いのですが、手元に見当たりません。)両者の実測例は(サンプルが違うので、もちろん微妙に違いますが)ほぼ同じような傾向を示しており、やはり、よく見かける6CA7の三極管接続(シングル)の動作例は少しおかしいようです(4.8Wと6Wの違いは約1dBなので、実際には大した違いではないのですが)。

インターネット上で手に入る幾つかのデータシートを見てみると、問題の動作例は、開発元のフィリップスの1958年のデータシートに既に載っています。この辺が出所なのは間違いないようです。ところが、興味深い事に1969年のフィリップスのデータシートには、この動作例は載っていません(三極管接続の動作は、全く載せられていません)。一方、Mullardのデータシート(1960年)には、動作例は載っていない代わりに特性曲線が載せられており、これは佐藤・那須両氏の測定結果とほぼ一致しています(つまり、正しいデータと思われます)。したがって、この特性から動作例を計算すると、シングル・6Wの出力は得られないはずです。どうやら、最初の三極管接続の動作例は間違っている、という事は、かなり早い時期に一部では知られていたのではないかと思われます。しかし一方では、(事情を知らない)松下などのデータシートには、最初の動作例がそのまま載せられ続けていた、という事情のように見えます。

フィリップスの最初の動作例がなぜ間違っていたか、と言うのは、もちろん分かりません。もしかすると、五極管接続の特性から三極管接続の特性を計算する簡易法が知られているので、それを用いた近似特性から計算した動作例だったのかもしれません。あるいは、実装したアンプでたまたまそうような性能が得られたのかもしれませんし、それほど細かい数字を問題にする時代ではなかったのかも知れません。

それはともかく、6CA7の三極管接続は、6G-A4の特性に極めて近い、と「ぺるけ」氏は指摘しています。確かに、6G-A4の特性曲線とMullardのデータシートの6CA7の三極管接続の特性曲線を比べてみると、かなり類似しており、ばらつきの範囲と言って良いくらいです。6G-A4は、東芝でしか製造していなかった真空管で、「玄人筋」には不評な真空管であった一方、アマチュアには使いやすく、とてもポピュラーな球でした(僕も、シングルアンプを作った事があります)。現在では入手が難しく、かなりのプレミアムがついて流通しているようです。代用管として、6AH4や6CK4が(一部で)もてはやされているようですが、実際はかなり性格の違う球ですし、入手性もそれほど良くありません。これらは、はるか昔に製造中止になったテレビ用の真空管ですから、オーディオ用に選別されたものもありません。6G-A4をポピュラーな6CA7/EL34で代用できるとなると、むしろ興味深い感じがします。さらに、6G-A4の最大プレート損失が15Wなのに対して、6CA7は25W~30W(第2グリッドの損失を入れるかどうかで、5Wのずれがでます)と一回り大きな球ですから、6G-A4の動作点で用いると余裕が十分あり、(真空管の交換が不要なくらいの)長寿命が期待できます。

6G-A4を6CA7で代用する事の難点は、電気的にはヒーター電力が2倍(6.3V0.75Aに対して1.5A)必要な事ですが、自作の場合はあまり問題ではないように思われます。むしろ、外形が一回り大きい(特に背が高い)ので、ムードがかなり違います。真空管アンプでは、外見の占めるファクターが大きいので、この辺がネックになりそうな気がします(少なくとも、僕には悩ましい感じがします)。何にせよ、どんなアンプを作れるか、と考えると夢が膨らむ話ではあります。

(2007年2月6日)

2010年11月22日月曜日

機器の撮影について

このエントリーの話題は、オーディオというよりは写真撮影です。ここに載せた写真は、カマデンのデジタルアンプ・キット(基板)で、STマイクロのTDA7491を用いたものです。ブログ用に写真を撮ってみよう、というのがお題です。

最初に、コンパクトカメラ(Panasonic DMC-FX60)で、普通に手持ち撮影してみます。マクロモードで、手振れしにくいように、やや広角気味で撮影しました。ホワイトバランスは、グレーカードを用いてプリセットしました(以下も同様です)。現像ソフトで、傾きを直したり、トリミングをした後の画像です。


けっこうきれいに撮れているように見えますが、レンズの歪みがちょっと気になりますし、構図も少し変です。「ブログ用としては、こんな物かな」というレベルです。そこで、一眼レフを持ち出して来て、やはり手持ちで普通に撮影しました。ニコンのD60に、標準レンズのDX35mm, F/1.8を使いました。マクロレンズではないですが、この位の大きさのものなら大丈夫です。


今度は、レンズのゆがみは気にならないけれど、構図はやっぱり少しずれた感じがするし、何よりも被写界深度が足りないので、シャープな部分は真ん中だけで、手前も奥もボケています。これが良い、という考え方もありますが、「物撮り」としては、やはりまずいでしょう。これでも、F4にはしているのですが、手持ちではこれ以上絞れません。

そこで、ミニ三脚を使い、絞りをF16まで絞って撮影したのが、下の写真です。露光時間は1/2秒で、手持ちでは全く無理です。セルフタイマーも併用してブレを押さえました。


拡大しないと分かりにくいですが、被写界深度は十分取れているし、構図も安定感があります。三脚を使うと、当然の事ながら構図を決めやすくなります。では、コンパクトカメラでは駄目か、と言うとそういう訳でもありません。DMC-FX60を三脚に載せて同じように撮影してみました。今度は、レンズの歪みを減らす事も考えて、やや望遠気味にして撮影しました。


レンズの歪みも気にならないし、構図も安定します。これなら、一見、それほど引けを取らない感じがします。感度をISO100に固定した事もあり、露光時間は1/6秒で、やはり手持ちでは難しい領域です。よく見ると、色がかぶっている部分もありますし、「絵」の余裕と言う点でも一眼レフと同じとは行きません。でも、最初の写真よりはずっとマシです。

物を撮る時は三脚を使う、というのは基本(あるいは常識)ではあるのですが、つい気軽さに負けていい加減な写真を撮ってしまいます。「基本に忠実に」という事ですね。

2010年11月21日日曜日

Topping TP10 Mk4

中国製の安いアンプを買ってみました。センチュリーの運営する白箱.comというサイトで扱っているTopping(拓品電子 TPDZ.net)というメーカーのもので、型番はTP10-Mark4となっています。送料込みで4980円という、オーディオ製品とは思えない価格です。TripathのTA2024というPWM方式のチップを使っていて、いわゆるデジタルアンプですが、入力はアナログです。スピーカーが増えて来たので、ちょっとスピーカーを鳴らすのに便利な小型アンプが欲しい、というのが購入目的のひとつです。出力は4Ωで15W×2となっていて、フルレンジなら十分鳴らせそうです。


こんな箱で送られてきます。驚いた事に、取扱説明書はありません。保証書らしきものは、販売店の領収書のみです。


箱を開けると、入っているのはACアダプターと本体だけです。ACアダプターにもToppingの名前が入っています。12V3Aで、36W級という事になります(白箱.comの説明では、12V2Aとなっていましたが)。一般的な形状のプラグなので、もっと大容量のものに交換する事も出来そうです。本体は、こんな感じです。フロントパネルも厚く、とても小さいのですが、けっこう見栄えがします。



出力端子は陸式ターミナルなのですが、かなり小型なので、裸線を接続するのは、ややためらいます。バナナプラグを使うのが無難そうです。電源スイッチはリアパネルにあります。



「お約束」で、音を出す前に分解してみます。(どうせ、保障もなさそうですし、「ケースを開けると保障が切れる」という、お決まりの注意書きも見当たりません。)分解に必要な工具は、T10のトルクス・ドライバーと、10mmの(ボリューム)ボックスレンチです。最初に、ボリュームのノブを引き抜いて、ボリュームをフロントパネルに固定しているナットを外します。


リアパネルのトルクスのビスを4本外せば、基板ごと引き抜けます。



心臓部は、Tripath TA2024ですが、放熱器は付いていません。すぐ脇に見える電源の電解コンデンサーはニチコンのもので、Museのようです。また、ラジアルリードの抵抗器が並んでおり、Daleの名前も見る事が出来ます(ラジアルリードの抵抗器にメーカー名が入っているのも珍しいし、ちょっとわざとらしい気もしますが)。キャパシターの容量をもっと大きくした方がいいかな、とか、ボリュームはもう少し良いものを使いたい、とか思わないでもありませんが、全体に、しっかりした部品を使っているように見えます。ボリュームは、一般品ですが、宣伝文句通りにアルプスのもののようです。ボリュームのカバーは、手半田でアースが取られています。上の写真でボリュームの左に見える白に赤のストライプのワイヤーがそれです。


出力部のリレーは、Songleという名前がついています(中国のリレーの専業メーカーらしいです)。インダクターのメーカーは良く分かりませんが、見慣れた部品のような気もします。フィルム・キャパシターは多数用いられていますが、大型のキャパシター(入力キャパシター?)にはEVOXの名前が見えます。EVOX RIFAのもののようです。


組み立ては、まぁまぁ、きれいです。基板の裏を見ると、ワイヤーのハンダ付け部分にヤニが飛んでいたりして、「こんな物かな」という感じではありますが、我慢できるレベルです。


音については良く分かりませんが、とりあえず普通に鳴っています。とても小さいので、いろいろ持ち運んだりして、便利に使えそうです。

2010年11月12日金曜日

Fostex FE126E バスレフ

FostexのFE126Eというユニットは、かなり強力な磁気回路と軽い振動系を持った、典型的なオーバーダンピングユニットです(現在は、すでにモデルチェンジしてFE126Enとなっています)。バックロードホーン用として販売されています。フォステクスの強力ユニットに多い限定ユニットではなく、割合と安価ですが、評判も良いようです。しばらく前に買ってみたのですが、バックロードホーンを作る元気も無く、置いてありました。とりあえず、バスレフの箱を作って音を聞いてみる事にしました。FE127EやF120A, FX120などと取り付け寸法は同じなので、FE126Eに合わないようならば、この箱には他のユニットを付ける事にしよう、という目論見です。最初から「駄目で元々」という感じでした。


内容積は約10ℓ、バスレフポートのfdは約69Hzです。FE126Eの取扱説明書に載っているバスレフ箱と比べると、内容積、バスレフポートの面積はほぼ同じ、バスレフチューニングは少し高めです。他の12cmユニットでも、この辺が頃合いかと思い、中庸のチューニングになっています。箱の素材は15mm厚のラワン合板、仕上げはオリーブのポアステインにサンディングシーラー、水性ウレタンニスです。ポートは、内径50mmのHI-VP管です(東急ハンズなどで容易に入手できる内径50mmの塩ビ管はVU管なのですが、厚みが薄くやや不安なので、強度の高いHI管をネットで取り寄せて使う事にしました)。


作って鳴らしてみると、さすがに強力な磁気回路と軽い振動系を持つだけあって、能率はかなり高く、音量を下げても音が痩せないリニアリティの良さがあります。フォステクスらしい、音の鮮度の良さも、しっかり持っています。最初、床に置いたまま音を出していたら、意外なほどにバランスが良くて、「これはこのままで行けるかもしれない」と思っていました。ところが、スタンドに乗せて鳴らしてみると、やはり低域の量感が不足しています。低域は、出ていない訳ではないのですが、レベルが低いし、締まり過ぎの感じが強くあります。やはり、標準的なバスレフでは難しいのかも知れません。でも、高能率ユニットの良さは十分感じられて、なかなか魅力的です。この箱は他のユニットにあてがって、FE126Eにはバックロードの箱を作ろうか、と考えているところです。

Fostex P650 バスレフ

雑誌「ステレオ」2010年7月号に、スピーカーユニットのキットが付録で付いて発売されていました。フォステクスの6.5cmユニットの組み立てキットが2本付いて2310円と割安な事もあり、作ってみる事にしました。不器用なので、ユニットの接着などは、いささか無様な仕上がりになりましたが、せっかくなので箱に入れて鳴らしてみる事にしました。


箱は、DCU-F071Wのバスレフとほぼ同様の設計で、内容積が約1.3ℓ、バスレフのfdが約106Hzです。入手の関係で、今回は12mm厚のラワン合板で作りました。仕上げは、オリーブのポアステインで着色して、いつものようにサンディングシーラー、水性ウレタンニスを数回塗って仕上げました。予想より、少し色が濃く仕上がりましたが、外見はそう悪くはありません(ユニットの組み立ての出来は別として)。


背面の写真です。ターミナルの大きさから、いかに箱が小さいかが分かります。組み立て上で、特に困る事は無かったのですが、フレームが四角なうえに端子部分の切り欠きが必要なので、開口部に余裕があまりありません。たぶんフレームは業務用のものを流用していて、クラフト用ではないのだろうと思います。クラフト用のユニットは、素人でも使いやすいように気が配られているのでしょう。

音については、フォステクスのユニットにしては、ずいぶん穏やかな音のように感じました。エッジがラバーのせいもあるかと思います。大きな音を出すのは厳しいですし、指向性も強めな感じですが、近接で使う限り十分音楽が楽しめるように思います。デスクから少し浮かせるなど、設置を工夫すれば、デスクトップなどで使うのに良さそうです。